越前堀えちぜんぼり)” の例文
それから、一日おいて次の夜、佐竹の家臣で、相当腕のたつ武士が、これもやはり、同じように咽喉を斬られ、越前堀えちぜんぼりの『船松』という網船の横丁の溝の中で死んでいた。
顎十郎捕物帳:04 鎌いたち (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
この男、あたしの目に触れだしたのは、越前堀えちぜんぼりのお岩稲荷いなりの近所ににかに囲われていたころだった。染物屋こうや張場はりばのはずれに建った小家で、茄子なすの花が紫に咲いていた。
「出ますよ出ますよ」と呼びながら一向出発せずに豆腐屋のような鈴ばかりならし立てている櫓舟ろぶねに乗り、石川島いしかわじまを向うに望んで越前堀えちぜんぼりに添い、やがて、引汐ひきしお上汐あげしおの波にゆられながら
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
実はきのう越前堀えちぜんぼりまで用達ようたしに行ったら、途中であの山田の息子さんね、あの新太郎さん、あの人に逢って、この近所でお前によく似た人を見かけたと云うからしやそうじゃないかと思って
或る別れ (新字新仮名) / 北尾亀男(著)