贔顧ひいき)” の例文
市川の話になると、岡見は我を忘れてひざを乗出すようなところがあった。それほど岡見はあの人を贔顧ひいきにしていた。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
彼様な穢多の書いたものばかり特に大騒ぎしなくても好ささうなものぢや有ませんか。どうも瀬川君が贔顧ひいきの仕方は普通の愛読者と少許すこし違ふぢや有ませんか。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
その日の競馬は五組に分れて、抽籤くじびきの結果、源は最後へ廻ることになっておりました。誰しもこの最後の勝負を予想する、贔顧ひいき々々につれて盛にかけが行われる。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
彼処あすこに会社が見えましょう。あの社長とかが向島を贔顧ひいきにしましてネ、箱根あたりへ連れてったそうです。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「でも、国の方に居るとこんなにみんな集るようなことも無いし、何と言っても旅は面白いね」と小竹が言った。「岡の贔顧ひいきなマドマゼエルもよく拝見したしサ——」
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
斯の言葉を聞いて、また人々が笑へば、そこへ弥次馬が飛出す、其尾に随いて贔顧ひいき不贔顧ぶひいきの論が始まる。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
私なんかのように貧乏人で、能の無い者でも、難有ありがたいことには皆さんが贔顧ひいきにしてくれてね。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
もつとも席順から言へば、丑松は首座。生徒の人望は反つて校長の上にある程。銀之助とても師範出の若手。いかに校長が文平を贔顧ひいきだからと言つて、二人の位置を動かす訳にはいかない。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「ここですか、貴方の贔顧ひいきにしてる家は」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)