財布かみいれ)” の例文
「小供の衣服きものよりは、おあしで上げた方が好かつたか知ら!」と考へた。そして直ぐに、「いいや、まだ有るもの!」と、今しも机の上に置いた財布かみいれに目を遣つた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
電車といふものに初めて乗せられて、浅草は人の塵溜ちりため、玉乗に汗を握り、水族館の地下室では、源助の話を思出して帯の間の財布かみいれを上から抑へた。人の数が掏摸すりに見える。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
『アノ……小母さん。』と智恵子は稍躊躇ためらひ乍ら、机の上の財布かみいれを取つて其中から紙幣さつを一枚、二枚、三枚……若しや軽蔑したと思はれはせぬかと、直ぐにも出しかねて右の手に握つたが
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)