おもね)” の例文
塩瀬、青柳、新杵の如きも徒に新菓のみを工夫して、時人の口におもねり、一般が広告で売ろうなどとはさても悪い了見を出したものだ。
残されたる江戸 (新字新仮名) / 柴田流星(著)
ただ上官へのおもねりや依怙えこひいきだけに依って保っている存在とはちがう。よくも悪くも、やはり時務にかかるとそれだけの腕はある人間だった。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
よりて万事をうち捨てて余の神聖なる希望を充たさんことを勉めたり、もちろん基督信徒として余は世にび高貴におもねり以て余の目的を達すべきにあらず、余の頼むべきは神なり、正義なり
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
そして青年を鼓舞こぶする事が急で、余りに煽動に走り、青年におもねるかの口吻こうふんが強すぎるために、かえって青年は、みな彼の配所の垣へ寄るのを嫌った。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「決して、おもねるわけではございませんが、たしかに、殿の御人徳によるものかと存ぜられます。それとこの中国において、わが羽柴軍が、ふかく民心を得た証拠とも申されましょう」
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
在家往生おうじょうとか、一向念仏とか、易行いぎょうの道とか、聞く原理はいわゆる仏教学徒の学問の塔にこもって高く矜持きょうじしている者から見ると、いかにも、通俗的であり、民衆へおもねる売教僧の看板のように見えて
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)