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訪来
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とひきた
或日
箕輪の内儀は思も懸けず
訪来りぬ。その娘のお俊と宮とは学校
朋輩にて常に
往来したりけれども、
未だ
家と家との交際はあらざるなり。
月正に五月に入つて旬日を経たる頃なり。もし
花卉を愛する人のたま/\わが廃宅に
訪来ることあらんか、
蝶影片々たる閑庭異様なる
花香の脉々として漂へるを知るべし。
愕然として彼は
瞳を
凝せり。ベッドの
傍に立てるは、その怪き夢の中に
顕れて、終始
相離れざりし主人公その人ならずや。打返し打返し
視れども
訪来れる満枝に
紛あらざりき。
絶交せるやうに
疏音なりし荒尾の、何の意ありて
卒に
訪来れるならん。