褐色かばいろ)” の例文
さ、こうなると、愚にもつかぬ、この長い袖の底には、針のようを褐色かばいろの毛がうじゃうじゃ……で、背中からむずつきはじめる。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
幽かな音をたてては食み盡くす蠶の眼のふちの無智な薄褐色かばいろわななきを凝と眺めながら子供ごころにも寂しい人生の何ものかに觸れえたやうな氣がした。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
躊躇ちゅうちょしていると日本服をきた女が物を頬張ほおばりながら、褐色かばいろ白粉おしろいをつけた大きな顔をぬっと出して、手にしたバナナの皮をお千代の足元へ投げつけた。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それから褐色かばいろになり緑色になる。そうして終に紫色になる。そいつも並の紫じゃァねえ。何んともいえねえ紫だ! ところで死絵は紅毛人どもが今大変な高い金でドンドンドンドン買い入れている。
染吉の朱盆 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
つい目の前を、足にからんだ水よりは色の濃い、重っくるしい底力そこぢからのあるのが、一筋、褐色かばいろうろこを立ててのたっているのが、向う岸の松原で、くっきりと際立って、橋の形があらわれたんだ。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
褐色かばいろの澁さよな
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
褐色かばいろに薄く蒼味あおみして、はじめ志した方へかすかながら見えて来た。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)