裁板たちいた)” の例文
大きな裁板たちいたの前でエーゴルが裁つ。私が縫う。これにエーゴルが仕上をして顧客へ届ける。少しずつお金をためる。
(新字新仮名) / 宮本百合子(著)
がたがたと動いていたミシンの音が止ると、彼は裁板たちいたの前に坐って、縫目をすためにアイロンを使いはじめた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
裁板たちいたも置かねばならず、裁った布もあたりにひろがるから、自然一間のうちは狭くなる。平凡だといえばそれまでであるが、その裏に平凡ならざる何者かを蔵している。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
きょうも裁板たちいた針差はりさしとを前にして、ひる過ぎからせッせと縫い物に他念がありません。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
裁板たちいたを前にして坐つてゐると、そこに静かな夕暮が来た。何んとも言へない微かな悲しみを雑ぜた夕暮が。日を経るにつれてその悲哀も次第に薄く微かになつて行くやうな夕暮の空気が。
百合子 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
彼女が一日工場でミシンや裁板たちいたの前などに坐って、一円二円の仕事に働くよりも、註文取や得意まわりに、頭脳あたまを働かす方に、より以上の興味を感じだしてからであった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
お島はそう言ってそのミシンや裁板たちいたを買入れるために、小野田の差金で伯母の関係から知合いになった或る衣裳持いしょうもちの女から、品物で借りてやっ調ととのえることのできたきわどい金を
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)