袂落たもとおと)” の例文
橋の袖木そでぎに窮屈な腰を下ろして、袂落たもとおとしの煙草たばこ入れと、火鎌ひがまを腰からとり出して、人待ち顔の暇つぶし煙草と出かけました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そういうカションはフランス人ながらに、俗にいう袂落たもとおとしの煙草入れを洋服の内側のかくしに潜ませているほどの日本通だった。そばへ来た官吏は目さとくそれを見つけて
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
毎度御贔屓ごひいきさまになりまして有難うございます、宅にばかり居りますから、お座敷先は分りませんで、おっかさん斯う云う袂落たもとおとしを戴いたの、ヤレ斯う云う指環ゆびわを戴いたのと云いましても
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
男も立端たちはを失ったように、一度しまいかかった袂落たもとおとしの煙草入れを又あけて、細い銀煙管から薄いけむりを吹かせていたが、その吸い殻をぽんと叩くのをきっかけに、今度は思い切って起ちあがった。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
袂落たもとおとしという懐中袋から、針を出して、返辞をしながらグングンと傷口を縫って行った。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)