螽斯ばった)” の例文
といった次第わけで、雪の神様が、黒雲の中を、おおきな袖を開いて、虚空を飛行ひぎょうなさる姿が、遠くのその日向の路に、螽斯ばったほどの小さな旅のものに、ありありと拝まれます。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「おい、若いの。先刻さっきからいやに黙ってるじゃねえか。……乙に澄ますねえフェ・パ・マラン・トア、やい!」と、いきなりドア越しにコン吉の脇腹を小突こづいた。コン吉は螽斯ばったのように飛びあがって
胆を潰した賓客達は、廊下へ向けて開けられてある——真鍮の格子でよろわれた横方形の窓口へ、螽斯ばったのように飛んで行って、声の主を見ようとした。しかし姿は見えなかった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
螽斯ばったのようになった手を蒲団ふとんの外になげだすようにして寝ているのが垣の間から見える。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
一旦くっついた支那船は綱に引かれて容易のことでは汽船の腹から離れようとしない。そこで縄梯子を引っかける。それを伝たわって甲板かんぱんの上へ螽斯ばったのように躍り込む。拳銃を五、六発ぶっ放す。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)