蚕棚かいこだな)” の例文
暗い蚕棚かいこだなと、襲うような臭気と、蚕の睡眠ねむりと、桑の出来不出来と、ある時はほとんど徹夜で働いている男や女のことを想ってみてもらわなければ
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
家の軒下には桑籠が沢山に積まれて、若い女房が蚕棚かいこだなの前に襷掛たすきがけで働いていた。若い娘は何を祈っているのか知らない。若い人妻は生活に忙がしそうであった。
磯部の若葉 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その真暗な蚕棚かいこだな式の寝床の間を、突き当りまで行った処で、ランタンの赤い光りが停止している。
幽霊と推進機 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
高潮の力に押し回され、中の間の柱と蚕棚かいこだなとの間に挟まって、動かれなくているうちに水が引き去り、後ろの岡の上で父がしきりに名を呼ぶので、登って行ったそうである。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
手拭を頭に巻きつけ筒袖姿つつそですがたの、顔はしわだらけに手もやせ細ってる姉は、無い力を出して、ざくりざくり桑を大切おおぎりに切ってる。薄暗い蚕棚かいこだなの側で、なつかしい人なだけあわれはわけても深い。
紅黄録 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
家の軒には桑籠くわかごがたくさん積まれて、若い女房が蚕棚かいこだなの前にたすきがけで働いていた。若い娘は何を祈っているのか知らない。若い人妻は生活に忙がしそうであった。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)