薄衣うすもの)” の例文
夏の薄い几帳越しに人のみじろぐのが暗い中にもよく感じられるのであった。静かに起きて、薄衣うすもの単衣ひとえを一つ着ただけでそっと寝室を抜けて出た。
源氏物語:03 空蝉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
黒い薄衣うすものに、同じ薄ものの露頭巾をかぶり、大小をさし、草履ばきで、すたすたと行くうしろ姿が——肩のやさしい線が——どこかお袖と似ているようでもあった。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おりから春の朧月が苑内の樹立こだちや湖を照らし紗の薄衣うすものでも纒ったように大体の景色をろうたけて見せ、諸所に聳えている宮殿の窓から垂帳たれまくを通してこぼれる燈火が花園の花木を朧ろに染め
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あの薄衣うすもの小袿こうちぎだった。なつかしい気のするにおいが深くついているのを源氏は自身のそばから離そうとしなかった。
源氏物語:03 空蝉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
婆惜はいちど起き直って、薄衣うすものを解き、裙子はかまのひもから下の物まで脱いで、蒲団を払い
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
白い薄衣うすものの単衣襲に淡藍うすあい色の小袿こうちぎらしいものを引きかけて、あかはかまひもの結び目の所までも着物のえりがはだけて胸が出ていた。きわめて行儀のよくないふうである。
源氏物語:03 空蝉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
ついでに空蝉うつせみ脱殻ぬけがらと言った夏の薄衣うすものも返してやった。
源氏物語:04 夕顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)