蒼涼そうりょう)” の例文
立科から桔梗ヶ原へ向けては、灰色の空をしきりに鳥が飛ぶのに、地上の荒野原は、この人ひとりをあるかせるための蒼涼そうりょうたる画面。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あの市街の石のような沈黙のうちに、僕は見たんだ、蒼涼そうりょうたるよるの流に包まれて紅き血汐の暴いバッカントの踊るのを。その屋根屋根をめぐって燐光の燃え、怪しい物かげのゆらゆらと反映するのを。
赤松の樹蔭こかげに茶店がある。中根さんはそこへ這入る。水潰けになっているラムネを二本註文する。みぞれをかいてもらって、それへラムネをかけて飲む。舌の上がぴりぴりとしてその醍醐味だいごみ蒼涼そうりょう
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
その代りに蒼白い面の表一面にみなぎるような沈痛の色、それは白日の下で見るよりは燈火の影で見た時に、蒼涼そうりょうとして人の毛骨もうこつを寒からしむるものがあります。
蒼涼そうりょうたる原始的の響きがあるものとは想像されます——君聞かずや胡笳の声最も悲しきを、紫髯緑眼しぜんりょくがんの胡人吹く、これを吹いてなお未だ終らざるに、愁殺す楼蘭征戍ろうらんせいじゅの児……
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)