菩薩像ぼさつぞう)” の例文
しかしながら、此のうら若い少女の細っそりとしたすがたをなすっていられる菩薩像ぼさつぞうは、おもえば、ずいぶん数奇すきなる運命をもたれたもうたものだ。
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
考えることも、読むことも、書くことも、全く不可能であった。薄暗い部屋の隅に立っている、木彫りの菩薩像ぼさつぞうさえが、ややともすれば、悩ましい聯想れんそうたねとなった。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
荒田老は、平木中佐の所論の絶対の肯定者こうていしゃとして、怪奇かいき魔像まぞうのように動かなかったし、大河無門は、その絶対の否定者として、清澄せいちょう菩薩像ぼさつぞうのように動かなかったのである。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
古めかしい木彫の菩薩像ぼさつぞうの、夢の様なエロティクに見入っていた時、うしろに、忍ばせた足音と、かすかなきぬずれの音がして、誰かが私の方へ近づいて来るのが感じられた。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
燭台しょくだいのたった一本の蝋燭ろうそくが、赤茶けた光で、そこに恥もなくよこたわった、花嫁御の冷い裸身を照らし出し、それが、部屋の一方に飾ってある、等身大の木彫りの菩薩像ぼさつぞうや、青ざめたお能の面と
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)