菜葉服なっぱふく)” の例文
ウィンチをく音が烈しく聞えて、鎖を下げた起重機は菜葉服なっぱふくの平吉を、蜘蛛くもの糸にぶら下った蜘蛛のように空中にげた。
秋空晴れて (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
一寸ちょっと待って下さい。』と喬介は側に立っていた菜葉服なっぱふくの一人に向って、『その晩、夜業は確かにあったんですね?』
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
技師は、服装に無頓着な男で、いつも青い菜葉服なっぱふくを着ていて、しかもよい市民であったようである。母親は白い頭髪を短く角刈にして、気品があった。
彼は昔の彼ならず (新字新仮名) / 太宰治(著)
積込つみこむ石炭を一々検査していると汗と炭粉で菜葉服なっぱふくを真黒にした二等機関士セカンドのチャプリンひげが、あえぎ喘ぎ駈け降りて来て「トテモ手が足りません。何とかして下さい」と云うんだ。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
菜葉服なっぱふくのような粗末な洋服を着ている。気味わるいほど頬がこけて、眼が異様に大きくなっていた。けれども、わば、一流の貴婦人の品位は、犯しがたかった。
水仙 (新字新仮名) / 太宰治(著)
兼は菜葉服なっぱふくとメリヤスの襯衣シャツをまくって、左腕の力瘤ちからこぶの上の繃帯ほうたいを出して見せた。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)