芳香かおり)” の例文
コルトンの死骸の横っていた共同椅子の辺には、青草が知らず顔に萋々せいせいと伸びている。倫敦は軈て芳香かおり高い薔薇の咲く頃となった。
P丘の殺人事件 (新字新仮名) / 松本泰(著)
血の異臭と、線香の芳香かおりが暗い部屋の中に息苦しい程みちみちた。その中に座り込んだ与一は仔細らしく両手を合わせた。
名君忠之 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
印度インド産の極上品よりもズット芳香かおりの高い、味のい烏龍茶を一つ毛唐に宣伝してみろってえ、その時の民政長官の男爵様で、後藤新平ごとうしんぺいてえ方が……ヘエ。
人間腸詰 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
学生の癖に意気地いくじが無いんだなあ君ゃ。ハハハハハ。まあ珈琲を一杯飲み給え。スマタラ製だが非常に芳香かおりが高いんだ。度胸が据って僕の話が面白くなるだろう。
焦点を合せる (新字新仮名) / 夢野久作(著)
唄う鸚鵡おうむも、舞う極楽鳥も、玉虫も、蛾も、ヤシも、パイナプルも、花の色も、草の芳香かおりも、海も、雲も、風も、虹も、みんなアヤ子の、まぶしい姿や、息苦しい肌のとゴッチャになって
瓶詰地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
蘭奢待らんじゃたい芳香かおり四隣あたりを払うて、水を打ったような人垣の間を、しずりもずりと来かかる折から、よろよろと前にのめり出た銀之丞、千六の二人の姿に眼を止めた満月は、思わずハッと立佇たちどまった。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
振り動かすたんびに云うに云われぬ美しい芳香かおりが湧き出すのであった。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
せかえる女性の芳香かおりと一所に……。
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)