船梯子ふなばしご)” の例文
仏蘭西フランスで見ると同じやうなあを黄昏たそがれの微光は甲板上の諸有あらゆるものに、船梯子ふなばしごや欄干や船室の壁や種々いろ/\の綱なぞに優しい神秘の影を投げるので
黄昏の地中海 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
アメリカふうになり済ましたらしい物腰で、まわりの景色にり合わない景気のいい顔をして、船梯子ふなばしごを上って来る様子までが、葉子には見るように想像された。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
更に船梯子ふなばしごのぼって二重になった高い甲板の上へ出て見た。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
今更に𤍠田丸あつたまる船梯子ふなばしごの高さよ。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
事によれば知人の多い東京へは行かず、この辺へ足をとどめ、身を隠そうかとも思っていた。その矢先混雑する船梯子ふなばしごを上って、底力のある感激の一声——
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
船梯子ふなばしごの下まで医官を見送った事務長は、物慣れた様子でポッケットからいくらかを水夫の手につかませておいて、上を向いて相図をすると、船梯子ふなばしごはきりきりと水平に巻き上げられて行く
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
わたくしは父を訪問しに来た支那人が帰りがけに船梯子ふなばしごを降りながら、サンパンと叫んで小舟を呼んだその声をきき、身は既に異郷にあるが如き一種言いがたい快感を覚えた事を今だに忘れ得ない。
十九の秋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)