さか)” の例文
そのずるそうな眼とさかしげな耳とを絶えず働かせて、内外うちとのことを何かにつけて探り出そうとしている、古狐のようなこの女房が
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
黒曜石のようなさかしい眼のあった個所には、眼窩がんかが暗い孔を開け、桜貝のような愛らしい耳が着いていたところから藻草が青い芽をだしている。
湖畔 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
もしさかしい者が美を産み得るなら、無学な者はなお産み得るのだと。誰か無学たるそのことを讃美さんびすることができよう。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
雲の間からをりをりさかしげに青空が覗いた。
モウタアの輪 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
蘆屋の大人うしさかしいお人で、世渡りの道にかけては、諸事ぬかりなくやってのけるという評判だが、表の道に木戸をおき、唐門の櫓に見張りあげて守らせても、裏の水路はまるあきで
うすゆき抄 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
さかしい智慧も無想の高さに比べてはいかに低いであろう。意識の加工は美の減退に終る。人々は今も技巧に謀って美に迫ろうとする。しかし結果において裏切られなかったことがあろうか。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)