聞耳ききみみ)” の例文
いったい何を落したのか、それも言わないで夜中に変な人だと聞耳ききみみをすますと、もう小路を曲って行ったのか、足音もしなくなっていた。
(新字新仮名) / 室生犀星(著)
今這入った女の動静をそっと塀の外からうかがうというよりも、むしろ須永とこの女がどんなあやに二人の浪漫ロマンを織っているのだろうと想像するつもりであったが、やはり聞耳ききみみは立てていた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
だが、なぜか私は、その声にギョッとして聞耳ききみみを立てないではいられなかった。
何者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
生絹はその僅かな留守居のあいだにも、何度か聞耳ききみみを立て、何度か往来の道ばたに出て行った。きゅうに春めいた田や畠はえた青い粉をぜた、かさねの色に見えた。
荻吹く歌 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
わざわざ立って行って、何でもないといまいましいから、気にかからないではなかったが、やはりちょっと聞耳ききみみを立てたまま知らぬ顔ですましていた。その晩寝たのは十二時過ぎであった。
文鳥 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
家内の人々はお互の足音にも、ビクッとして聞耳ききみみを立てる程におびえていた。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
私はしばらくすると私自身の腹の中にそっ聞耳ききみみを立てるように、何かをさぐりながら聞こうとした。
童子 (新字新仮名) / 室生犀星(著)