縄手なわて)” の例文
旧字:繩手
満月では無くて欠けた月であった。縄手なわての松が黒かった。もうその頃汽車はあったが三人はわざと一里半の夜道を歩いて松山に帰った。それは
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
ここでは何よりもまず茶のうまいのがたのしい。京都の縄手なわてにある西竹と云う家も朝御飯がふっくり炊けていてうまかった。それから、もっとうまいのに、船の御飯がある。
朝御飯 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
京都の、四条の橋について、縄手なわて新橋あがルところに、小野亭というお茶やがあった。外国人ばかりをお客にするので、そこにばれるを、仲間では一流としない風習があった。
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
折々、田圃たんぼ肥料こやしにおいのようなものが何処からともなくにおって来るのが感ぜられた。過ぎて来た路を振り返ると、やはり行く手と同じような松の縄手なわてが果てしもなくつづいて居る。
母を恋うる記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
素姓を聞くと、下総国の縄手なわての住人で河内守かわちのくに永国ながくにという者だという。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
縄手なわての西竹と云う小宿へ行った。小ぢんまりとした日本宿だと人にきいていたので、どんな処かと考えていたが、数寄屋すきや造りとでも云うのだろう、古くて落ちついた宿だった。
田舎がえり (新字新仮名) / 林芙美子(著)