素地したじ)” の例文
彼の熱意が孫権をして翻然ほんぜんと心機一転させたものか、或いはすでに孫権の腹中に、魏を見捨てる素地したじができていたに依るものであろうか。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その驚くべき天才の芽生えを少しも傷つけることなく、生涯音楽に対する情熱を持ち続ける素地したじを作ることが出来たのである。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
平生から彼を軽蔑けいべつする事において、何の容赦も加えなかった津田には、またそういう素地したじを作っておいた自覚が充分あった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
先生がこの瘣を気にし出したのは、よほど以前から素地したじのあった胃病が、大分こうじて来てからであった。先生はそのころから、筆を執るのが億劫らしく見受けられた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「すべてはわが大望の素地したじだった。そして義貞もまた、この尊氏の土持つちもちしてくれた一人とすれば憎くもない」
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
シュヴァイツァーが二十四歳で神学博士となり、傍らオルガン音楽に練達し、早くも一流の玄人くろうととしての素地したじを築いたのは決して偶然ではなかったのである。
だが、こういうあやしい禍因をつくるものの素地したじは、やはりそのころの時代が持っていたものであろう。
その本質のうちには、芸術家としての豊かな天分があり、それがたまたま他の技巧家のごとく、歪められた我意とならずに、素直に純粋に成長して、演奏家としての最上の素地したじとなったものであろう。
が、結果的にいえば、秀吉は秀吉自身の素地したじをこのあいだに築いていたということになる。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかるに、蒋門神のため、その素地したじ蹂躪じゅうりんされ、しかも軍権力もあるため、無念をのんでいた折です。そこへはからず高名な足下そっかをここに見いだして、まさに雲をはらッて陽を見るの思いです。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その素地したじを、北条再建軍にうばわれては、彼の立脚する所はなくなる。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
全土に素地したじができているから始まったことなのです。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)