窘迫きんぱく)” の例文
前からり合っている人のように、少しの窘迫きんぱくの態度もなく、歩きながら云われたのである。純一は名刺を出して、奥さんに渡しながら、素直にこう云った。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
柔かき臥床ふしどは英雄の死せんことをねがふ場所に非ず。誹謗ひばう罵詈ばり、悪名、窘迫きんぱくたま/\以て吾人の徳を成すに足るのみ。見よ清教徒は失意の時に清くして、得意の時に濁れるに非ずや。
信仰個条なかるべからず (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
お常の身の上はこれまでより楽にこそなっているが、少しも圧制だの窘迫きんぱくだの掣肘せいちゅうだのを受けてはいない。なるほど無縁坂と云うものが新に出来たには相違ない。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
視線がしばら往来ゆききをしているうちに、純一は次第に一種の緊張を感じて来た。どうにか解決を与えなくてはならない問題を与えられているようで、窘迫きんぱくと不安とに襲われる。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
先きに立って這入って、電燈を点じてくれたしづえと一しょに、己は洋室にいたとき、意識の海がまだ波立っていた為めか、お雪さんと一しょにいるより、一層強い窘迫きんぱくと興奮とを感じた。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)