空呆そらとぼ)” の例文
其の果報者は何処の何奴だと空呆そらとぼけて訊きますと、相手は一層調子に乗って来て、それはそれは綺麗な美男子なのよ、まるで女見たいな。
陳情書 (新字新仮名) / 西尾正(著)
スッポンというのは養魚場の宇佐見金蔵の渾名あだなで、彼は自ら空呆そらとぼけることの巧みさと喰いついたら容易に離さないという執拗ぶりを誇っていた。
鬼涙村 (新字新仮名) / 牧野信一(著)
而も、俺が起き上るのを内々待ち受けていて、それをわざと空呆そらとぼけてる、という顔付だった。その気持が余りまざまざとしてただけに、却って俺の方が落付を失った。
神棚 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
さてはこいつ、万次郎を殺して空呆そらとぼけているのだろうと思いましたから、わたくしも厳重に詮議を始めましたが、やはり同じようなことを繰り返していて埒が明かない。
半七捕物帳:50 正雪の絵馬 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
思はず欠伸あくびをするやうなことになつたり、眞面目なことを言はなければならない場合にも、つい空呆そらとぼけて横を向いたりするやうな始末であつて、そのために君の求めるものは酬いられず
桃の雫 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
貴様は空呆そらとぼけているようだが、貴様がこの頃、婚約を申込んでいる山木のテル子嬢はなあ、この犬を洋行土産に呉れた唖川歌夫……知っているだろう、貴様の恋敵に対して済まないと云って
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
でも、踊りの方は全くそっちの事件には素知らぬ気色で相変らず浮れつづけ見物の者もまた、誰ひとり眼もくれようともせず、知って空呆そらとぼけている風だった。
鬼涙村 (新字新仮名) / 牧野信一(著)
横田さんが周平の言葉に取合わなかったのは、心あって空呆そらとぼけたのだ。
反抗 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
早速それをお葉に話して、自分の笠を誰が持ち出したのかと詮議したが、お葉は一向知らないと空呆そらとぼけていた。そんなことはちっとも心配するに及ばないと、彼女は平気で澄ましているのであった。