禾本かほん)” の例文
絶壁の縁を辿って頂上へ急ぐ、房さりした禾本かほん科の植物が柔い葉を拡げて、崖の端から一尺許りの間に瑞々しい緑を敷き延べている。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
時にある禾本かほん類が沢山に山中で繁茂している処を遠望して、これを山スゲなどと既に在る成語を使った例は恐らく幾つもありはせぬかと想像する。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
「ふる川の向う岸・こちら岸に、大きくなって立っているみぬまの若いの」と言うてくると、灌木や禾本かほん類、ないしは水藻などの聯想が起らずにはいない。
水の女 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
あしに似た禾本かほん科の植物類が丈深く密生して、多少凸凹でこぼこのある岸の平地から後方鳥喰崎の丘にかけて、いばらのような細かい雑草や、ひねくれた灌木だの赤味を帯びた羊歯類の植物だのが
死の快走船 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
千手ヶ原の湖水に接したあたりは、あしやらすすきやら禾本かほん科植物の穂先が、午下の太陽から迸射する強い光芒に照されて、銀の乱れ髪のように微風にゆらめいている。
秋の鬼怒沼 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
見渡した所一面の笹原で、少数の禾本かほん科植物の外には、岩石もなければ目を喜ばせる草花もない、下から眺めて想像したのとは打って変った至極平凡なものであった。
利根川水源地の山々 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
六寸から一尺あまりに延びた禾本かほん科や莎草しゃそう科の植物が吹き募る東南の風になびいている。
秋の鬼怒沼 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
壁面の上部にはわずかの罅隙をもとめて根を托した禾本かほん科らしい植物の葉が、女の髪の毛をいたように房さりと垂れて、葉末からは雫でも落ちているらしく、手でしごいたように細くなっている。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
矮い栂や樺などの密生している所もあれば、禾本かほん科の植物が房さりと生い茂っている所もある。岩襞はいつか自ずと馬の背のような崖を形造って、私達は其先端に小高く堆積した岩塊の上に立った。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)