砂塵すなぼこり)” の例文
折から月は全く西のに落ちて、水やそら、黒白も分かぬ沖の方に、さながら砂塵すなぼこりのごとき赭土色のもうもうと立ち迷うを見たり。
片男波 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
そのたびに半蔵らは口をふさぎ、顔をそむけて、深い砂塵すなぼこりの通り過ぎるのを待った。乾燥しきった道路に舞い揚がる塵埃ほこりで、町の空までが濁った色に黄いろい。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
空っ風が強くて、黄色な砂塵すなぼこりあがっていた。雪が来る前には乾くものだ。道は乾き切って割れている処さえあった。小高い丘の船問屋の高い竿のさきに赤い旗が翻々ひらひらひらめいている。
越後の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
この途端、青嵐あおあらしというには余りに凄かった。魔風と云おうか、悪風と去おうか、突如として黒姫おろしが吹荒ふきすさんだ。それに巻上げられた砂塵すなぼこりに、行列の人々ことごとく押包まれた。
怪異黒姫おろし (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
その日は風の多い日で、半蔵らは柳原やなぎわらの土手にかかるまでに何度かひどい砂塵すなぼこりを浴びた。きには追い風であったから、まだよかったが、もどりには向い風になったからたまらない。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)