矜持ほこり)” の例文
平常しょっちゅう店の若い番頭や手代の顔をにらみ付けるような眼付をしていたが、しかしそれは彼女が普通の下女奉公と同じに見られまいとする矜持ほこりからであった。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
傲慢ごうまんで、矜持ほこりの高い、レエヌさんの、このやつれ切ったようすを見ると、キャラコさんは、すこしばかり心の底に残っていた怒りや軽蔑の感情をすっかり忘れてしまった。
キャラコさん:05 鴎 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「私はぶつ倒されたの。」と云ふのが、私のきずつけられた矜持ほこりの痛みが、私をして吐き出すやうに云はした露骨な説明であつた。「だけど、それで病氣になつたのぢやないの。」
芸人としての矜持ほこりもあれば、一世一代に、老後の思いでとして一度ははなばなしく思う存分に舞台を持ってみたいとかねがね思っていた、その機会がはからず到来したのだから
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
人間としての、尊き矜持ほこりは「生きる」ということを、考えるところにあるのです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
『爾、思ひあがれる芸術家よ。先づその矜持ほこりを捨てよ。次に、その中に淀める汚濁けがれを浄めよ、次に、小さなる皮肉と小さなる観察とを捨てよ。しかして、野にある羊かひの如く賤しかれ』
J. K. Huys Mans の小説 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
又、王女らのもてるにも似し、わがはかなき矜持ほこりさげしむ。
正太は一種の矜持ほこりを感じた。同時に、この隠居にまで拝むような眼で見られる自分の身をうるさく思った。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
また君の相変らぬ小さき矜持ほこりをも思ひ出し候。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
それに、扱いかねている女中の様子と、馴染の無い客に対する妓の冷淡とが、何となく二人の矜持ほこりきずつけた。殊に、榊は不愉快な眼付をして、楽しい酒の香をいだ。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
金の話は余計に兄の矜持ほこりきずつけた。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)