眸底ぼうてい)” の例文
戦争はまのあたりに見えぬけれど戦争の結果——たしかに結果の一片いっぺん、しかも活動する結果の一片が眸底ぼうていかすめて去った時は
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その蒼い灝気こうきの中に、点々としてかすかにきらめくものは、大方おおかた昼見える星であろう。もう今はあの影のようなものも、二度と眸底ぼうていは横ぎらない。
首が落ちた話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ほかの部分は夜目よめでよく見えんのに、顔だけが著るしく強い色をして判然眸底ぼうていに落つるからである。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
城らしきものはかすみの奥に閉じられて眸底ぼうていには写らぬが、流るるしろがねの、けむりと化しはせぬかと疑わるまで末広に薄れて、空と雲との境に入る程は、かざしたる小手こての下より遙かに双のまなこあつまってくる。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)