真向まむこう)” の例文
旧字:眞向
建込たてこんだ表通りの人家に遮ぎられて、すぐ真向まむこうに立っているの高い本願寺の屋根さえ、何処どこにあるのか分らぬようなしずかなこの辺の裏通には
銀座界隈 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
聴きおわりたる横顔をまた真向まむこうえして石段の下を鋭どき眼にてうかがう。こまやかにを流したる大理石の上は、ここかしこに白き薔薇ばらが暗きをれてやわらかきかおりを放つ。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
鹿落を日暮方出て此地ここへ来る夜汽車の中で、目の光る、陰気な若い人が真向まむこうに居てね。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかし骨董こっとうと名のつくほどのものは、一つもないようであった。ひとり何とも知れぬ大きな亀のこうが、真向まむこうに釣るしてあって、その下から長い黄ばんだ払子ほっす尻尾しっぽのように出ていた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)