盗見ぬすみみ)” の例文
彼は食慾もないらしく、皿に手をつけ様ともせず、青ざめて、オドオドとあたりの人々の顔を盗見ぬすみみて、座にも耐え難い様子であった。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
お祖父さんが、本を盗見ぬすみみしてゐた自分を叱るとばかり思つてゐた栄蔵は、急にやさしいお祖父さんの言葉をきいて、ぽとぽと涙が出て来た。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
そして笑ったかとおもうと、その瞬間に笑いの表情は消え失せて、相手の顔色を上眼づかいに憎々しげに盗見ぬすみみしているのだ。
鬼涙村 (新字新仮名) / 牧野信一(著)
怪紳士の顔を道夫がそっと盗見ぬすみみすると、たしかに心がいらいらしているらしく見えた。しかし彼はそこを一所けんめいにこらえている様子だ。
四次元漂流 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しかし、またちらっと盗見ぬすみみすると、やはり黄色い頬に黄色い涙をつけた、大事なわが子の像があるのです。
しかもその可能は明後日に開かれる特別会議の夜だけに、かすかに盗見ぬすみみするほどであった。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
彼等はお互に、隣席の人達の横顔を、ソッと盗見ぬすみみないではいられなかった。残らず知合いの間柄だ。その中にたった一人だけ、恐ろしい奴が隠れているという。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)