片方かたかた)” の例文
「何だ。冗談じょうだんか」と行こうとすると、おろし立ての草履が片方かたかた足を離れて、拭き込んだ廊下を洋灯ランプ部屋の方へ滑って行く。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「それも、わたしの知ったことではない、お前さんたちは、あれほど固く結びついていながら、いまさら片方かたかたの行方を人に問うなどとは、あんまり虫がよすぎる」
体の痩せぎすな、渋い好みのお増は、着物の上へちょっと袖を片方かたかた通しただけでじきに止めてしまった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
平生ふだんの癖で時々、片方かたかたを片方の上へ重ねて、そのままとろとろとなると、下になった方の骨が沢庵石たくわんいしでも載せられたように、みしみしと痛んで眼が覚めた。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)