焦燥いらだ)” の例文
と軍医大佐はしきりに首肯うなずいていたが、その顔面筋肉には何ともいえない焦燥いらだたしい憤懣の色が動揺するのを私は見逃さなかった。
戦場 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
彼の頭は焦燥いらだつと共に乱れて来た。彼の観念は彼のへやの中をめぐって落ちつけないので、制するのも聞かずに、戸外へ出て縦横に走った。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かさねがさねのわざわいに彼はいよいよ焦燥いらだって、もう一度その実否じっぴをたしかめるために、今夜もこの寺内に忍び込んで、長次郎より一と足さきに墓場にかくれて
半七捕物帳:24 小女郎狐 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
棋將碁うち混ぜたる入法外いりほがの差出口、五ならべの初心者をつかまへても、初より八段に桂馬飛せさせむと肝を煎り、まだ歩もつかぬ盤面に指さして、それ王手をと氣を焦燥いらだ
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
われはられたる臂を引き放さんとすまひつゝ、ベルナルドオ、物にや狂へると問ふに、友は焦燥いらだつ聲を抑へて、叫ばんとならば叫べ、男らしく立ち向ふ心なくば、人をも呼べ
のみならず、その音を聞くと同時にイヨイヨ自分の無罪を確信しつつ、メチャクチャに相手をタタキ付けてしまおうと焦燥いらだった。
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
血のめぐりが悪いのか、あるいは意地が悪いのか、こういう場合にも彼はさのみに慌てている様子もみせず、いつもの足取りでしずかに歩いて来るらしいのが、又もや長三郎を焦燥いらだたせた。
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)