為向しむ)” の例文
女の口から言わせるように為向しむけて、そして自分が止めるのをも聴かず、女があえてするようになることを望んでいた。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
義理にもそんな薄情な行為を為向しむけられるようなことを、自分は少しもしていない。……今に来るにちがいない。不安の念を、そう思い消して待っていた。
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
もっとも、女房の為向しむけも疑えば疑われる。食わしてもらうその礼心でもあろうが、銭占屋の事というと忠々まめまめしく気をつけて、下帯の洗濯から布団の上げ下ろしまで世話をしてやる。
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
日野屋の資産は兄栄次郎の遊蕩ゆうとうによってかたぶき掛かってはいたが、先代忠兵衛が五百に武家奉公をさせるために為向しむけて置いた首飾しゅしょく、衣服、調度だけでも、人の目を驚かすに足るものがあった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)