火塵かじん)” の例文
ほか楠木や名和の隊も突進してゆき、攻守入りみだれて、炎の下のたたかい半日余、たそがれにはもうそこは無残な火塵かじんの広場だった。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まろびつ、お千絵を抱えた万吉と、お綱の姿だけは、渦まく火塵かじんを泳ぎぬけて、裏門の外へ出たらしいが、ああ、遂に、乳母のおたみだけは
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
事実、なお中に踏み止まって、彼方此方かなたこなたと駆けている者は、時には煙にせ、時には火塵かじんをかぶっていた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
間もなく、山門のひさしは、ばらばらとくずれ、火塵かじんはまるで華火はなびのように噴きあげて、快川の影も、だんだん黒く変ってきたが、しかもなお曲彔きょくろくに懸ったまま倒れもせずに楼上にあるではないか。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)