灌腸かんちょう)” の例文
そのころには、病人の体もただ薬の灌腸かんちょうや注射でたしてあるくらいであった。頭脳あたまがぼんやりして、言うことも辻褄つじつまが合わなかった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
だから、今まで僕は滋養灌腸かんちょうで生きて来たのだ。君が今のませた丸薬と水は、腹にあててある繃帯が吸い取ってしまったのだよ。
卑怯な毒殺 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
さあ、おやしきへ飛んで帰って、それから医者を呼ぶやら、灌腸かんちょうをするやら、大騒ぎになりましたが、本当に神様も無慈悲な方でございまス。
「いいや、もう少し待って見て、いよいよ利きが見えなかったら灌腸かんちょうしよう」と下腹をさすりながら、「どうだったい、お仙ちゃんの話は?」
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
けれどこれは、はかない空頼みにすぎませんでした。現に姉さまは、ちやうどその頃Hさんの店へ、イチジク灌腸かんちょうを買ひに見えたといふではありませんか。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
アメーバ赤痢で血便が一日に三十回もあったときで、灌腸かんちょうと牛乳責めが日課だった。いくら牛乳のすきな私でも、一昼夜に大茶碗で八回ものまされるのは大閉口した。
もう二、三日食物が通らなければ滋養灌腸かんちょうをするはずだった際どいところを、よく通り抜けたものだなどと考えると、生きている方がかえって偶然のような気がした。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
虚弱で下剤の利かぬ体質だったために秘結ひけつに苦しんでいましたが、灌腸かんちょうを嫌うので治療の仕様もなくて、どの医者も手を引きましたので、父は家人に話して、長襦袢に穴をあけて
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
仕方がないので遂に医師は滋養灌腸かんちょうを試むるようになった。居士はその時余を手招きして医師は今何をしたかと聞いた。それが滋養灌腸であることを話した時に居士は少し驚いたようであった。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
灌腸かんちょうがきいたかららくになったでしょう」
母の死 (新字新仮名) / 中勘助(著)
寝たまま便を取らせたり、痛い水銀灌腸かんちょうをとにかく聴きわけて我慢するほどに、子供が病室にらされるまでには、それから大分日数ひかずがかかった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そればかりか罹災りさいのつい二三日前にも、ちやうどHさんが夕方ひとりで店番をしてゐた時、姉さまが心配さうな蒼い顔をして、小児用のイチジク灌腸かんちょうを買ひに見えたのださうです。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)