渓底たにそこ)” の例文
旧字:溪底
人を馬鹿ばかにしているではありませんか。あたりの山では処々ところどころ茅蜩殿ひぐらしどの、血と泥の大沼になろうという森をひかえて鳴いている、日はななめ渓底たにそこはもう暗い。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
渓底たにそこから沸き上る雲のように、階下の群衆の頭の上を浮動して居る煙草たばこけむりの間を透かして、私は真深いお高祖頭巾の蔭から、場内にあふれて居る人々の顔を見廻した。
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)