海鼠板なまこいた)” の例文
料理場はあとから建て増したものらしく、銀座通に面した表附とはちがって、震災当時の小屋同然、屋根も壁もトタンの海鼠板なまこいた一枚で囲ってあるばかり。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
地見ぢみ、椅子直し、襤褸ぼろッ買い、屑屋なんていうてあいが海鼠板なまこいたで囲った簡素高尚なバラックを建てて住んでいる。
犂氏の友情 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
本所ほんじょの寿座ができたのもやはりそのころのことだった。僕はある日の暮れがた、ある小学校の先輩と元町通りをながめていた。すると亜鉛トタン海鼠板なまこいたを積んだ荷車が何台も通って行った。
追憶 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
勾配こうばいがつかぬので、屋根は海鼠板なまこいたのトタンにし、爪立つまだてば頭がつかえる天井てんじょうを張った。先には食堂にして居たので、此狭い船房カビンの様な棺の中の様なしつで、色々の人が余等と食を共にした。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)