汪然おうぜん)” の例文
こういう風景をながめていると、病弱な樗牛の心の中には、永遠なるものに対する惝怳しょうけい汪然おうぜんとしてわいてくる。日も動かない。砂も動かない。
樗牛の事 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
私の郷里は正確にいうと愛知県幡豆はず郡横須賀村であるが通称「吉良郷」と呼ばれ、後年この土地に任侠にんきょうの気風が汪然おうぜんとしてぎりたったのも、彼等が尊敬あたわざる領主
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
浪子は汪然おうぜんとして泣けり。次の間にも飲泣いきすすりの声聞こゆ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
汪然おうぜんとして涙は時雄の鬚面ひげづらを伝った。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
しかし、——しかしその乳房ちぶさの下から、——張り切った母の乳房の下から、汪然おうぜんと湧いて来る得意の情は、どうする事も出来なかったのである。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)