水馴棹みなれざお)” の例文
あちらをひとり泳ぎをはじめている水馴棹みなれざおの形を見つめて、ぼんやりと立っていましたが、やがて、その面に、自暴やけに似たような冷静さが取戻されて来て
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
眠元朗は纜をといてから、舟を渚から少しずつすべり出させた。引き波の隙間をねらって、舟はふうわりと白い鴨のように水の上を辷った。眠元朗は水馴棹みなれざおった。
みずうみ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
菊王の手の水馴棹みなれざおが、水の中で、ぶるとふるえた。もすこし、男のことばの裏に何かがひそんでいたら、一さつの水玉と共に、棹は、相手を河へ叩き落していたかも知れない。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
伏鐘の三羽烏といわれる毛抜の音、阿弥陀の六蔵、駿河の為と、この三人はもちろん、船頭に化けて水馴棹みなれざおをつかっていた一味十二人、そのままそっくりこっちの網に入りました
水馴棹みなれざおを取落さぬばかりに驚いて、「あっ!」と舌を捲かしめた先方の人影というものは、よく見る尾羽おは打枯うちからした浪人姿で、編笠をかぶって謡をうたったり
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いや、何気なにげのう河原の小舟に乗りとうなって、独りで水馴棹みなれざおを持ってみたが、舟と水とは相性のものと思うていたが、さて流れに出てみると、なかなかままに動かぬものじゃな。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と鮮やかな水馴棹みなれざおは、たちまち舸を本流へ出して、向う岸へと突ッ切って行った。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いったんともづなを手繰った手を休めて、女の子は、舟の中に横にねていた水馴棹みなれざおをとって、無言で男の手に持たせますと、男はそれを受取って身構えた形が、最初とは見まごうばかりであります。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)