水道町すいどうちょう)” の例文
この茗荷谷を小日向水道町すいどうちょうの方へ出ると、今も往来の真中に銀杏いちょうの大木が立っていて、草鞋わらじ炮烙ほうろくが沢山奉納してある小さなお宮がある。
病院が手狭てぜまと見えて、お住いは小石川水道町すいどうちょうでした。召使を代えたいからとのお話で、旧津和野つわの藩の人の娘をお世話したことがありました。幾度か事細ことこまかな書面を下さるのでした。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
同じ下宿するなら、遠方がよいというので、本郷辺へッて尋ねてみたが、どうも無かッた。から、彼地あれから小石川へ下りて、其処此処そこここ尋廻たずねまわるうちに、ふと水道町すいどうちょうで一軒見当てた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「家は以前の所です。小日向こびなた水道町すいどうちょう……覚えているでしょう。一日でも二日でも能御よござんす。暇を見てちょっと来て下さい。失礼だが、これはその時の車代に。」
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しゅうとや小姑の多勢いたうちの妻になりきれなかったのはこのせいである。屈辱とも不義とも思わず小日向こびなた水道町すいどうちょうの男の家へ誘われるがままに二度まで出掛て行ったのもまたこの性情によるのである。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)