歯癢はがゆ)” の例文
ビアトレスは眼を閉じて、軽卒にも知らぬ男の電話にかかって、此ような旅館へ監禁された不甲斐なさを、今更のように歯癢はがゆく思った。
P丘の殺人事件 (新字新仮名) / 松本泰(著)
く春廼舎の技巧や思想の歯癢はがゆさに堪えられなくなった結果が『小説神髄』の疑問の箇処々々に不審紙をったのを携えて突然春廼舎の門を叩いた。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
死灰しかいの再び燃えぬうちに、早く娘を昇に合せて多年の胸の塊を一時におろしてしまいたいが、娘が、思うように、如才なくたちまわらんので、それで歯癢はがゆがって気をみ散らす。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
原ともあろうものが今から年をとってどうする、と彼は歩きながら嘆息した。実際相川はまだまだ若いつもりでいる。彼は、久し振で出て来た友達のことを考えて、歯癢はがゆいような気がした。
並木 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
何故東京浅草の方にあった書斎を移して持って来たような心で、二年でも三年でも巴里の客舎に暮せないのか、それは彼には言うことが出来なかった。歯癢はがゆい心持で、自分の下宿を出て見た。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)