欷歔ききよ)” の例文
気落ちした様に「桐の花」の原稿を投げ棄てて小生と母と二人欷歔ききよしたのも——それから如何に逃れ難い悲哀のおもてに面接したとはいへ
わが敬愛する人々に (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
世には一人の猶我を愛するものなしと欷歔ききよして叫びし時、否、アントニオと云ふ聲耳に響きて、われは温き掌の我額を撫で、たちまち又熱き唇の其上に觸るゝを覺えき。
跡は欷歔ききよの聲のみ。我眼はこのうつむきたる少女の顫ふうなじにのみ注がれたり。
舞姫 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
詩神は蒼茫たる地中海を渡り、希臘ギリシアの緑なる山谷の間にいたりぬ。雅典アテエンは荒草斷碑の中にあり。こゝに野生の無花果樹いちじゆくくだけ殘りたる石柱をおほへるあり。この間には鬼の欷歔ききよするを聞く。
跡は欷歔ききよの声のみ。我まなこはこのうつむきたる少女のふるうなじにのみ注がれたり。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
欷歔ききよしつつ九年母くねんぼむきぬ。ゆかりき。あはれそれより
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ダルドルフの癲狂院てんきやうゐんに入れむとせしに、泣き叫びて聴かず、後にはかの襁褓一つを身につけて、幾度か出しては見、見ては欷歔ききよす。余が病牀をば離れねど、これさへ心ありてにはあらずと見ゆ。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)