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檝
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かぢ
兵士を隱し伏せ、鎧を衣の中に
服せて、河の邊に到りて、船に乘らむとする時に、その
嚴飾れる處を
望けて、弟王その
呉床にいますと思ほして、ふつに
檝を取りて船に立ちませることを知らず
況や
金薄半ば剥げたる大窓の
※らざる板もて圍まれたるありて、大廈の一部まことに
朽敗になん/\としたるをや。既にして
梵鐘は聲を
斂めて、
檝の水を撃つ音より外、何の響をも聞かずなりぬ。
磯ちかく旅寝をすれば夜もすがら
網引やすらし
檝の
音ぞする
更にその兄王の河を渡りまさむ時のために、船
檝を具へ飾り、また
佐那葛三の根を
臼搗き、その汁の
滑を取りて、その船の中の
簀椅に塗りて、蹈みて仆るべく
設けて、その王子は、
布の
衣褌を
服て
既に
賤人の形になりて、
檝を取りて立ちましき。