槿花きんか)” の例文
空を蔽う煙り煙り! 槿花きんか一朝の夢として、武蔵野に現われた阿房宮、逃げ水屋敷の燃え崩れる姿を、背景にして四散する人々!
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
槿花きんかちょうの夢”といえば、わずか六字でもことはすむが、如実に再現しようとか分かろうとしてゆくと、きのうの経験さえも容易でない。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おもてをつけず熊野ゆやの舞一くさりあり。久次の牢輿ろうごしにて連れ行かれしを見送り「まことや槿花きんか一日のさかえ、是非もなき世の盛衰ぢやなあ」との白廻せりふまわしもねうちあり。
両座の「山門」評 (新字旧仮名) / 三木竹二(著)
現代思潮の変遷はその迅速なること奔流ほんりゅうもただならない。あしたに見て斬新となすものゆうべには既に陳腐となっている。槿花きんかえい秋扇しゅうせんたん、今は決して宮詩をつくる詩人の間文字かんもじではない。
十日の菊 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
また、本能寺変による槿花きんか一朝のみじめな敗戦亡流のうき苦労も、彼女の年齢としては、余りに深刻な経験でありすぎた。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)