杉森すぎもり)” の例文
古藤はしゃちこった軍隊式の立礼をして、さくさくと砂利じゃりの上にくつの音を立てながら、夕闇ゆうやみの催した杉森すぎもりの下道のほうへと消えて行った。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
廻沢の杉森すぎもりのあなたを、葬式が通ると見えて、「南無阿弥陀ァ仏、南無阿弥陀ァ仏」単調な念仏ねんぶつが泣く様に響いて来る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
勘太郎の村から十丁ばかりはなれた所に光明寺こうみょうじという寺があった。山を少し登りかけた深い杉森すぎもりの中にあって、真夏まなつの日中でもそこは薄寒うすさむいほど暗くしんとしていた。
鬼退治 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
この十日の間に、倉地にとってはこの上もない機会の与えられた十日の間に、杉森すぎもりの中のさびしい家にその足跡のしるされなかったわけがあるものか。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
葉子は息気いきせき切ってそれに追いつこうとあせったが、見る見るその距離は遠ざかって、葉子は杉森すぎもりで囲まれたさびしい暗闇くらやみの中にただ一人ひとり取り残されていた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)