とき)” の例文
彼はふたときほどもそこに立ち迷って、自分の眼をさえぎる何物かのあらわれるのを待っていたが、その夜はなんの獲物えものもなしに帰った。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いひ出してはいづれ小半ときと、澄も今はお園の手前『おお忘れてゐた、夕刻までに、行かねばならぬ処があつた』
したゆく水 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
例の堅気かたぎ牙彫げぼりの職人らしい扮装つくり、落ちつき払った容子ようすで、雪之丞の宿の一間に、女がたの戻りを待っているのだが、もう顔を見せそうなものだと思いはじめてから、四半とき、半晌
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
かつら (やがて砧の手をやめる)一とき餘りも擣ちつゞけたので、肩も腕も痺るゝやうな。もうよいほどにして止めうでないか。
修禅寺物語 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
小半ときも、さきに出張っていやあがって、今までそこらをウロウロしているたあ、あきれかえった奴だ! それで、竹町の親分づらが出来るのか? そんなことなら、申し上げて、十手を
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
それをまだ気遣ふて、うかうかする半ときは、このおれが何十年の苦労を無にする半晌と、心注かぬ馬鹿者めが。あれ程いふたにこのおれの心が分らぬ大馬鹿もの、もうその馬鹿ものに用はない。
移民学園 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
常吉が文字春の家の格子をくぐったのは、それから一ときほどの後であった。文字春は待ち兼ねていたように、すぐに長火鉢のまえを起って出た。
半七捕物帳:16 津の国屋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
彼は鮫洲の宿しゅくをうろ付いて、一ときほども待っていたが、老婆は遂に引っ返して来ないので、よんどころなくかの風呂敷包みをかかえて戻ったというのである。
経帷子の秘密 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
加勢の手をかりて、かれの凍った死骸を枯れた蓮の根から引き揚げたのは、それから小半ときの後であった。
半七捕物帳:37 松茸 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ときほど前から屋敷を忍び出て、今に戻られぬ、忍びの物詣でかとも存ずれど、なんとやら不安に思われる節もあるので、それがしお跡をたずねて参ったところ
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
大きい杉のかげに身を寄せて、彼はゆうべと同じようにふたときほども待ち暮らしたが、折りおりに落葉のころげてゆく音ばかりで、土の上には犬一匹も通らなかった。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それからそれへと一ときほども猟りつくして、二人はがっかりしてしまった。気がついて振り返ると、どこをどう歩いたか、二人は山科郷のうちの小野という所に迷って来ていた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
半七はしずかにって出て行ったが、それから小半ときも経たないうちに、手拭に巻いた片足の草履を持って来た。かれは与七を呼んで、この間あずけて置いた草履の片足を取り寄せた。
半七捕物帳:31 張子の虎 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
どうぞ再び蘇生するようにと、ふたときあまりも一心不乱に祈っていたと申します
半七捕物帳:66 地蔵は踊る (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それから又半ときも経ったと思う頃に、濡れた草鞋の音がこの前を通って、隣りの家の門口かどぐちに止まった。猫婆の息子が帰って来たなと思っていると、果たして籠や盤台を卸すような音がきこえた。
半七捕物帳:12 猫騒動 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
舐め筆の娘の死んだ日にお丸そっくりの女が筆を買いに来て、一ときばかり経って又その筆を取り換えに来た。そこが手妻てずまだ。取り換えに来たときに、筆の穂へなにか毒薬を塗って来たに相違ねえ。
半七捕物帳:22 筆屋の娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
死んでもうらみはない。賤が伏屋でいたづらに、百年千年生きたとて何とならう。たとひ半とき一晌でも、將軍家のおそばに召出され、若狹の局といふ名をも給はるからは、これで出世の望もかなうた。
修禅寺物語 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
春彦 夜とは申せど通ひなれた路、一ときほどに戻つて來まする。
修禅寺物語 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)