擒縦きんしょう)” の例文
運命の擒縦きんしょうを感ずる点において、ドストイェフスキーと余とは、ほとんど詩と散文ほどの相違がある。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
く二葉亭は八門遁甲とんこうというような何処どこから切込んでも切崩きりくずす事の出来ない論陣を張って、時々奇兵を放っては対手あいてらしたり悩ましたりする擒縦きんしょう殺活自在の思弁にすこぶる長じていた。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
あせらずせまらず、擒縦きんしょうの術を尽せしが、敵の力や多少弱りけん、四五間近く寄る毎に、翻然延し返したる彼も、今回は、やや静かに寄る如く、鈎𧋬はりすの結び目さえ、既に手元に入りたれば、船頭も心得て
大利根の大物釣 (新字新仮名) / 石井研堂(著)
だが、先方は玄人くろうとだ。こっちがあせればあせるほど、擒縦きんしょうの呼吸をつかむことが、今になって、わからないでもない。武術の上から見ても、この点は段違いだと、きもを奪われたことが幾度か知れない。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)