“捥(もが)” の例文
すると文吉は擽(くすぐ)ったさが鼻へ抜け、痛さが身体中の要処(ようしょ)々々の力を引抜き、たゞ「あー あー」と口を開けて全身は空に捥(もが)くだけであります。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
腕を引っこ抜く勢(いきおい)で、捥(もが)いて、掻巻をぱっと剥(は)ぐ、と戸棚の蔽(おおい)は、旧(もと)の処にぼうと下(さが)って、何事も別条はない。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
貫一は苦しさに堪(た)へで振釈(ふりほど)かんと捥(もが)けども、嘉納流(かのうりゆう)の覚ある蒲田が力に敵しかねて、なかなかその為すに信(まか)せたる幾分の安きを頼むのみなりけり。遊佐は驚き、風早も心ならず
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
しかしドーブレクは死に捥(もが)きつつ苦しい息の下から『マリー……マリー……』と云う細い声を漏すばかり。でもルパンは遂にその夜深更に至ってドーブレクを救出すことに成功した。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
二人の女中は周章て飛んで来て宥(なだ)めつ賺(すか)しつしましたが、わたくしは極度の恐怖が身体も手も慄えさしまして、遮二無二(しゃにむに)この茨(いばら)の館から遁れ度く、女中の腕から放れようと懸命に捥(もが)きます。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)