愛惜あいじやく)” の例文
しかし大いに東京を惜しんだと云ふわけぢやありません。僕はこんなにならぬ前の東京に余り愛惜あいじやくを持たずにゐました。
しかしもう、かれこれ十年近く、いつもこの机に向つてゐることを思ふと、さすがに愛惜あいじやくのないわけでもない。
身のまはり (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
しかし櫛形くしがたの鉄橋には懐古の情も起つて来ない。僕は昔の両国橋に——狭い木造の両国橋にいまだに愛惜あいじやくを感じてゐる。それは僕の記憶によれば、今日こんにちよりも下流にかゝつてゐた。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
けれども今は薄汚うすぎたない亜鉛葺トタンぶきのバラツクのほかに何も芝居小屋らしいものは見えなかつた。もつとも僕は両国の鉄橋に愛惜あいじやくを持つてゐないやうにこの煉瓦建れんぐわだての芝居小屋にも格別の愛惜を持つてゐない。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)