愁歎場しゅうたんば)” の例文
彼の母親は大泣きに泣いて十幾幕も愁歎場しゅうたんばを見せた。彼の祖母は三度井戸に飛び込んで三度引上げらた。あとで彼の母親は到処いたるところで説明した。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
わあ、また愁歎場しゅうたんばか。汝等なんじらは、よく我慢してあそこに頑張っておれるね。神経が太いんだね。薄情なんだね。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
そのあいだに部下はいち早く、ピストル強盗の縄尻なわじりとらえた。そのあとは署長と巡査との、旧劇めいた愁歎場しゅうたんばになった。署長は昔の名奉行めいぶぎょうのように、何か云いのこす事はないかと云う。
将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
食品を運んで来る女中は、わたくしたち中年前後の夫妻が何か内輪揉うちわもめで愁歎場しゅうたんばを演じてるとでも思ったのか、なるべくわたくしに眼をつけないようにしてふすまからの出入りの足を急いだ。
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
山奥の田舎から出て来たばかりの赤毛布あかげっとは、妙なところに感心したりして、そうして、雀三郎の政岡の「とは言うものの、かわいやな」という愁歎場しゅうたんばを見て泣き、ふと傍を見ると
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
それから女と泣き別れの愁歎場しゅうたんばがよろしくあって、とどあの晩汽車の窓で手巾ハンケチを振ると云うのが大詰おおづめだったんだ。何しろ役者が役者だから、あいつは今でも僕が国へ帰っていると思っているんだろう。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)