わづ)” の例文
友達は蜜柑があんまり好きで膽石をわづらつたことがあつたのだ。ずつと前にも急病だといふので澁谷の家へ急いでいつたら、矢つ張り蜜柑の食べすぎだつた。
あるとき (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
……そいでもあいつ負け惜しみの強いやつや、母者人はやひとが心配してわづろてる枕元で、青六に借錢の抵當に取られるより、川に取られた方がえゝ吐かしてけつかつた。
太政官 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
「有難いことにろくな風邪も引かないよ。尤も萬一わづらつたとしても、俺は流行醫者は嫌ひだよ」
ぢあお前はわづらつてゐなければ面白くないやうな麻痺状態になつてしまつたのかい? そんなになつてゐるのなら、『死』にそつくりな国へ逃げて行かう——万事僕が呑み込んでゐるよ
人の世の、もの事すべてわづらはし
干物 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
お神さんがわづらつた時は觀音樣へ曉方のお百度詣りをしたとか、寒中に水垢離みづごりを取つたといふ話もありましたが、それほどの信心でも定命ぢやうみやうに勝てなかつたものか、お神さんは二年前に亡くなりました
駒込の知邊にわづらつてゐるのに、近頃は誰も見舞つてやる者さへなく、その中で足の惡い春松と臆病者の馬吉だけは、感心に昔の恩を忘れず溝口屋の榮えを齒噛みをして口惜しがつてゐたのでした。