御店おたな)” の例文
大勝の御店おたなの方から手伝いに来た真勢さんは日本橋高砂たかさご町附近の問屋を一廻りして戻って来て、た品物をそろえに出て行こうとしている。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
御店おたなものの懇親会というところだろう」と評し合っているうちに、十六七の小僧が手摺てすりの所へ出て来て、汚ないものを容赦ようしゃなくひさしの上へいた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
東京では今でも御店おたななどという。魚の棚は魚商人が毎日または日を決めて魚の店を出した場所で、関西の都会にある魚町という町の名と同じことであろう。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
大勝の御店おたなにより、石町こくちょうの御隠居の本店ほんだなにより、その他大勝一族いちまきの軒を並べた店々により、あの辺の町の空気は捨吉に親しいものであった。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
まず第一には、御店おたなめた酒と、長火鉢ながひばちわきでぐびぐびやった酒とは、この番頭にとって同じ経験であります。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大勝の御店おたなから田辺の家へよく使に来る連中で、捨吉が馴染なじみの顔ばかりでも、新どん、吉どん、とらどん、それから善どんなどを数えることが出来る。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
國から二番目の兄に養父が上京した節、銀さんも御店おたなの方から暇を貰つて逢ひに來たことが有りました。その時は皆な揃つて記念の寫眞を撮りました。
なにしろ銀さんは御店おたなずまひの身で、宿入の時より外には豐田さんの家へも來られませんでしたから。で、銀さんの着物の洗濯でも出來た時には私の方から持つて行きました。日本橋の本町です。